【医療スタッフコラム】「胚培養士とは」2018.09.21
みなさん、こんにちは。
みなさんは、胚培養士(エンブリオロジスト)という職業をご存知ですか?
胚培養士とは、医師の責任のもと生殖補助医療(いわゆる不妊治療)における卵子や精子を取り扱う技術者のことです。
最近では「妊活」という言葉がネット上で飛び交っていますし、著名人が「不妊治療を頑張っています!」といったSNSを見ることも多くなりましたね。
不妊治療も一昔前に比べるとずいぶん一般的な治療になってきました。
日本産科婦人科学会の報告によれば、2015年度に生まれた赤ちゃんのうち20人に1人は体外受精で生まれた赤ちゃんだったそうです。
体外受精とは、不妊治療の中でも最も高度な治療で、体外に取り出した卵子と精子を受精させ、受精卵を子宮内に移植する方法です。
この体外受精で、胚培養士は大活躍しています。
胚培養士は、医師によって女性の卵巣から取り出された卵子と精子を体外受精もしくは顕微授精という方法で受精させます。
採卵の翌日には、受精の確認を行い、受精卵を女性の体内と同じ環境を作ることができる培養液の中で培養します。
発育した受精卵は胚と呼ばれ、適切な時期(受精から2日目から5日目)に医師によって子宮内へ移植されます。
移植に用いなかった胚の中で順調に発育した胚は、次周期以降の治療のために大切に凍結保存します。
このように「命のもと」を取り扱う胚培養士には、患者様からお預かりした大切な生殖細胞を優しく扱う技術のみならず、卵子・精子の取り違え防止や最良の培養環境が提供できるような培養液や機器の管理などを適切に行う高度なスキルが求められます。
イギリスにおける世界初の体外受精児の誕生(1978年)は、産婦人科のSteptoe医師と生殖生物学者のEdwards博士によってもたらされました。
このEdwards博士こそが胚培養士(エンブリオロジスト)の先駆け的存在です。
彼の当時の功績は、彼が2010年にノーベル医学生理学賞を受賞したことからも容易に想像できますね。
日本においては、遅れること5年、1983年に初めて体外受精で赤ちゃんが誕生しています。
当初は、医師が採卵から胚移植、培養液の作成に至るまでほぼ全ての業務を行っていました。
しかし、今現在では業務の分業化が進み生殖細胞を扱う業務は、胚培養士が行うようになり、必要とされる技術や専門性も各段に上がっています。
受精卵や胚の質が胚移植後の成績に直結していることは言うまでもなく、胚培養士の技術レベルがクリニック・病院の臨床成績を左右する大きな要因の一つとも言われています。
国内で体外受精によって生まれる赤ちゃんは年に5万人を超えていますが、その誕生は私たち胚培養士の日々の業務が支えています。
医師や看護師以外にも生命の誕生に携われる仕事があるということも知っていただければ幸いです。