【産婦人科医コラム】女性の一生の健康に関わる疾患、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)をご存知ですか2018.12.28
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)とは
多嚢胞性卵巣症候群(polycystic ovary syndrome;以下PCOS)は、婦人科の内分泌疾患の中では、もっとも頻度の高い疾患の一つで、月経がある世代の5~10%程度に認められると言われています。
したがって、月経不順(月経周期が25~38日の範囲に収まらない)の女性は自分がPCOSかどうか診断をうけておく必要があります。
PCOSの診断基準
以下の①~③の全て満たす場合にPCOSと診断されます。
- 月経異常(排卵障害)
- 卵巣に多くの嚢胞がある
- ホルモン検査でLH(黄体形成ホルモン)が高いか、男性ホルモンが高い
なお、思春期の場合は、一時的にPCOS状態になることがありますので注意が必要です。
また、特徴的なのはインスリン抵抗性(糖尿病体質)を合併することが少なくない点です。
中高年の糖尿病女性の半数にPCOSがあるという報告もあります。
PCOSの女性の年代別の様々な健康上の問題
PCOSの女性は思春期から更年期まで以下のような症状が出やすいことがわかっています。
<若い世代>
月経不順・毛深い・ニキビが出やすい・肥満傾向
<結婚後>
不妊症・不育症・妊娠中の妊娠糖尿病の合併
<中高年>
メタボリック症候群・糖尿病・高脂血症・心血管系合併症
以上のほかにも、無月経が続けば子宮体がん(内膜がん)への注意も必要になります。
PCOS女性の健康上の問題は全て対応が可能
ただし、これら全ての徴候は対応が可能ですので、悲観的になる必要はありません。
つまり、月経不順にはホルモン療法で簡単に月経を起こすことが可能ですし、毛深いことやニキビにはピルが有効です。
これらの方法で子宮内膜がんの予防もできます。
排卵障害には、排卵誘発剤の内服薬や注射が有効ですが、PCOS女性は薬が効きすぎて卵巣過剰刺激症候群になり易いので注意が必要です。
これは、卵巣が腫れたり、腹水が溜まったりするもので、ときに入院治療が必要になります。
以上のような薬物療法以外にも、PCOS独特の治療法として、卵巣開孔術といって、腹腔鏡手術で卵巣に小さな穴を開ける方法があり、この方法で排卵誘発剤が不要になることがあります。
妊娠糖尿病や糖尿病の場合は、食事療法やインスリン注射が必要になります。
メタボリック症候群などは、食事療法などの健康管理が有効です。
PCOSはいわゆる遺伝性の病気ではありませんが、母親がPCOSの場合は、その娘もPCOSになりやすい傾向があります。
つまり体質が似るという感じです。
その他に特殊な例として、てんかんで小児期からバルプロ酸の服用を続けているとPCOSになることがあるとの報告があります。
また、男性ホルモンを産生する卵巣腫瘍によりPCOS的になった例も報告されています。
最後に
PCOSは頻度の高い疾患なので、月経不順のある女性は、一度婦人科を受診し、きちんとPCOSかどうか診断を受けておく必要があります。
もしPCOSと診断されたら、生涯にわたる注意が必要であることを理解して、自分の健康管理に気をつけてお過ごしください。
*文中の記載内容には薬剤の適応外使用が含まれます。
*薬剤を使用する際には主治医の判断に従ってください。