【産婦人科医コラム】「卵子の老化」ちょっと誤解していませんか? -その12020.02.27
「わかってますよ。誰でも年を取れば妊娠しにくくなるんでしょ!」と思っていますよね。
『「老化」とは、生物学的には時間の経過とともに生物の個体に起こる変化。
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その中でも特に生物が死に至るまでの間に起こる機能低下やその過程を指す。
老化は、死を想起させたり、成熟との区別が恣意的であることから、加齢、エイジングと言い換えられる場合もある。
学術分野では発生、成熟、老化などを含めた生物の時間変化すべてを含む言葉として「老化」を用いる。』
以上のようにウィキペディアでは解説されています。
体の老化と卵子の老化は違う
我々は、老若男女問わず、もちろん誰でも、日々、時々刻々と老化します。卵子もその中の一つで、同じように老化するのは当然だと思っていませんか?
実は個体の、あるいは臓器の老化と卵子の老化は大きく違います。個体や臓器の老化は、細胞の集合体全体の結果としての老化です。
一方、卵子の老化は、単一のたった一つの細胞の老化です。個体や臓器の老化は徐々にやってきます。
というのはたくさんの細胞の集合体だからです。例えて言うならば、会社がだんだん古くなっていくようなものです。
会社の構成員は、会社ができた時から徐々に変わっていきます。
新人が入ってきたり、定年で退職する人がでたりします。
しかし、平均年齢が高くなるにつれ、全体としては成熟した、老化した組織になります。個体や臓器では、日々新しい細胞が作られ古い細胞が死んでいきます。
そして、長い年月をかけて全体がだんだん古くなっていきます。
卵子の老化は会社の例えであれば、たった一人の社員の問題のようなもので、組織全体とは関係ないものです。
体全体の老化と卵子の老化は、同じ老化という言葉を使っていても、意味が大きく違うことに気付いていただきたいと思います。
「妊娠出産を考えたら、若いほうが良い」というのは、体全体の老化から考えられることです。
卵子は生まれる前に作られる
卵子の細胞は女性が生まれる前、お母さんのおなかの中で育っているときに一度だけ作られ、その後二度と作られません。
その細胞はその後卵巣に移動し、原始卵胞という形で卵巣の表面近くに保存されます。
ですから、20歳の女性の卵子は20年以上、30歳の女性の卵子は30年以上生き延びた細胞ということになります。
哺乳動物の寿命を考えれば、奇跡的に生き延びた特別な細胞だとわかると思います。
生まれる前、500~700万個あった卵子は、生まれた時点で200万、初経期で30万、35歳ぐらいになると2~3万、閉経時には1000個ぐらいになり、どんどん数が減っていくと言われています。
私のイメージでは、生き残っている卵子も実はボロボロです。
その辛うじて残っている卵子で子作りするのですから、35歳ぐらいから妊娠率は下がり始め、逆に流産率は上がり、42~3歳ぐらいで自然妊娠の限界を迎えます。
妊娠率が下がり、流産率が上がるのは卵子の老化のためで、細胞内で染色体分離等がうまくいかなくなり、染色体異常が急激に増えてくるのが主な原因です。
今回は体の老化と卵子の老化は同じものではないということをお伝えしました。
次回は卵子の老化そのものについてご紹介したいと思います。
浅田義正
医療法人浅田レディースクリニック
女性へのメッセージ
不妊治療は玉石混交です。医師ごとに治療体系が異なり、その知識や志向も実に様々です。また、インターネットをはじめとするメディアの情報の中には信憑性に欠けるものも多く存在します。 治療の開始時期や治療法の選択、クリニックや医師の選択など、患者さん自身が正しい知識を身に付け、自分の人生設計や将来の家族構成に合った治療を受けていただきたいと思います。どのような不妊治療を選択するかによって、人生は変わると思います。