「指定感染症」になることにはどんな意味があるの?2020.09.15
新型コロナウイルス肺炎の流行に伴い、「指定感染症」という言葉を耳にする機会が増えています。今回は指定感染症とは何か、その定義や指定を受けることの意味、指定の有無による対応の変化など、いまだからこそ知っておきたい情報をまとめて紹介します。
指定感染症とは
指定感染症は、感染症法では指定されていないものの、国民の健康に重大な影響を及ぼす可能性があるとして指定された感染症のことです。感染症法では、いくつかの感染症を1~5類のカテゴリに分けて指定し、その感染症患者へ法的根拠のもと取るべき対応を示しています。
本来であれば、感染症法に基づき感染症を指定するには、時間をかけて話し合い法律を一部変更する必要があります。しかし、爆発的な流行や強毒性の疑いがある感染症から国民を守るには、患者の行動や医療機関での方針を緊急に制限し、迅速に対応しなければなりません。
そこで、本来なら感染症法で指定する必要のあるような危険な感染症の流行を抑えるため、臨時で法律上のカテゴリに当てはめ対処方針を示した政令を発するのです。
こうして、感染症法に基づき政令で緊急に指定された感染症を、指定感染症と言います。有効期間は発令から原則1年間、必要に応じて最大2年まで延長されることもあります。
指定感染症の種類
感染症法では、感染力や毒性など、その特徴ごとに感染症を5つのカテゴリに分け指定しています。分類の数字が小さいほど危険性の高い感染症であり、この感染症法上の分類が、患者に対する措置の法的根拠となります。
- 【1類】エボラ出血熱、ペスト、ラッサ熱 など
- 【2類】結核、SARS、MERS、一部の鳥インフルエンザ など
- 【3類】コレラ、細菌性赤痢、腸管出血性大腸菌感染症、腸チフス など
- 【4類】E型肝炎、A型肝炎、狂犬病、マラリア など
- 【5類】インフルエンザ、はしか、梅毒 など
上記のいずれの分類でも指定されていないが、緊急の対応が必要な危険な感染症に対して、指定感染症の政令が発せられます。
指定感染症になるとどうなる?
指定感染症となると、その感染症の患者への対応が以下のように変わります。
本人の意思にかかわらず、医師が患者を強制的に入院させられる
指定を受けていない感染症では、医師が必要だと判断しても、入院を強制することはできません。どのような治療・療養の方法を取るかは、患者に決定権があります。しかし指定感染症になると、医師は政令を根拠に患者を強制入院させることができます。患者の行動制限と隔離が可能になるため、より迅速な感染拡大予防策を講じられるようになります。
医療機関には、感染の疑いがある患者を届け出る義務が生じる
指定を受けていない感染症の場合、医療機関から保健所等へ感染症の疑いや発生を届け出る義務はありません。しかし指定感染症の場合、感染者や感染疑いの患者について、医療機関から行政へ届ける義務が生じます。これにより、感染者数や感染者の出た地域の把握がしやすくなります。
患者の特定と強制隔離により、濃厚接触者も把握しやすくなる
感染症の多くは、感染者と長い時間同じ空間にいたり、触れ合うことで拡大します。このため感染者が現れたら、その感染者と接触した人を的確に把握し追跡することが、感染拡大の抑止には非常に重要です。指定感染症になると、感染者の隔離とともに接触者の調査も法的強制力をもって迅速に進められるようになります。
医療従事者の感染リスクを下げられる
医療機関のなかには、1類・2類など危険性の高い感染症の診療対応に向け訓練を積んだ感染症指定医療機関が存在します。法的強制力があれば、全国から指定感染症患者を感染症に強い医療機関に収束し治療することもできるので、他の医療従事者の感染リスクは下げられるでしょう。
入院費が公費負担となり、患者に請求されない
指定感染症による入院の費用は、公費負担となります。このため、指定感染症で入院をする患者本人やその家族に、費用が請求されることはありません。軽症の患者でも、安心して入院による隔離措置を受けられます。
おわりに:指定感染症になると、患者の行動制限や医療従事者の対応に法的な強制力が発生します
突発的に発生した感染症に対し、その感染力や毒性から国民に重大な影響を与えると政令で指定された感染症が指定感染症です。感染症法に基づき、指定感染症であると政令で指定された感染症の対応には、法的な強制力が生じます。
例えば、感染者を強制的に感染症に強い医療機関に入院・隔離したり、感染拡大を防ぐための接触者への調査も迅速に行えるようになります。感染者の入院費も無料になります。(medicommi 2020年4月9日)