災害後、避難所で過ごすときに気を付けたい健康面のポイントは?2020.09.29
地震活動の活発化や、温暖化による気候変動・異常気象により、日本における災害被害は近年増加傾向にあります。今回は災害後、避難所で過ごさなければならなくなったときに備え、避難所生活で健康を保つために意識すべきポイントを解説します。
避難所生活のポイント①:清潔を心がけよう
健康を維持しつつ避難所生活を送るために、まず大切なのが手と口内の清潔を保つことです。以下に、ライフライン(電気・ガス・水道)が止まった環境で手の清潔を保つ方法をご紹介します。
手の清潔を保つ方法
- 除菌ウェットティッシュ、手に擦りこんで使える手指用の消毒液・ジェルをこまめに使って手の清潔を保ちます
除菌ウェットティッシュを使った手指のケア
- 手のひらを拭いた後、シートを裏返して手の甲を拭く
- 指は付け根から腹、指先に向けて順に汚れを拭き取っていく
消毒液・ジェルを使った手指のケア
- 手のひら・手の甲にすり込む
- 汚れが残りやすい指先、指と指の間や親指の付け根の凹んだ部分、手首も忘れずに塗る
不特定多数の人が過ごす避難所では、共有物にさまざまな細菌・ウイルスが付着している可能性が高いです。
そこで、以下にご紹介するタイミングでは、特にこまめに手指の消毒・ケアを実施しましょう。
- 食事や調理の前
- トイレ、おむつ交換の後
- 片付けやゴミを触った後
- 鼻をかんだり、咳やくしゃみを手で覆った後
- 動物に触れた後
また食事は絶対に素手ではなく、箸・フォーク・スプーンなどの道具や食器を使ってください。また、食べ残しは捨てて食中毒予防を徹底しましょう。
口内の清潔を保つ方法
避難所生活では水不足による乾燥から、感染症への免疫力が弱くなるため、口内の清潔を保つことも非常に重要です。以下を参考に、口内の清潔を保つ工夫をしましょう。
- 食べたものを口内に残さない工夫をする
よく噛み、食後に水やお茶で口内を洗い流すようにして飲むと、口内に食べかすが残るのを防げます。舌で歯を舐めるようにして歯磨きするのも効果的です。 - 唾液の分泌を促す
頬を反時計回りにさすってマッサージしたり、舌を上下・左右・右回り・左回りに動かしてストレッチし、口内環境の悪化と乾燥を防ぐ唾液の分泌を促しましょう。 - 少量の水だけで歯磨きする
少量の水でも、歯ブラシを使った歯磨きは可能です。水を歯ブラシに着け、歯ブラシについた汚れをティッシュなどで拭き取りながら、全体を磨いていきましょう。歯磨きが終わったら、きれいなペットボトルの水で口をすすいでください。 - うがいでできる口腔ケア
歯磨きが難しいときは、少量の水で起床時・食後・就寝前にうがいするだけでも口の中をきれいにできます。ペットボトルのフタで1~2杯の水やお茶を、数回かけて歯と歯の間や舌、口全体に行き渡らせてください。 - 高齢者は入れ歯のケアも忘れないで
入れ歯を使用する高齢者の場合は、口内と合わせ入れ歯のケアも必要です。食後は入れ歯を外してウェットティッシュで汚れを落とし、購入時にもらった専用のケースに入れて保管してください。また、入れ歯を外した後の口内は、口腔用のウェットティッシュやガーゼ、ハンカチで拭って清潔を保ちましょう。
避難所生活のポイント②:食事や水分補給を忘れずに
避難所生活では精神的に不安定になりやすく、物資が不足したり、食欲不振による栄養不良や脱水症状に陥りがちです。しかし、食事や水を十分に摂ることは、体力と免疫力の維持、そして脱水が原因で起こる心筋梗塞、脳梗塞、低体温、便秘、エコノミークラス症候群の予防に欠かせません。飲み物が手に入るなら、我慢せずたくさん飲みましょう。
また、食事は手づかみではなく、お箸やラップなどにくるんで、できるだけ直接手で触れないようにすると、食中毒や感染症の予防に効果的です。食欲がないときは、以下の対策を試してみてください。
- 室内でできる軽い体操やストレッチ、運動でエネルギーを消費する
- ビタミンやミネラル豊富な野菜や果物のジュースを積極的に、優先的に摂る
- 食事が難しければカロリーの高い飲料、汁物、甘いものを口にする
妊娠中・授乳中の女性の過ごし方は?
妊娠中や授乳中の女性、赤ちゃんは、チャンスを逃さず水分と食事を摂ることが大切です。物資が十分でないときは食べられそうなものを、食べものの種類が増えてきたら、ビタミンが多く含まれる野菜ジュースや果物ジュースを積極的に摂取してください。
また、精神的なショックや栄養不足から母乳が出なくなることがありますが、赤ちゃんはお乳を吸うだけで安心するといわれています。赤ちゃんに吸ってもらった方が母乳も出やすくなりますから、周囲にも協力してもらいながら、抱っこや授乳の時間はしっかり確保してあげましょう。
ただし、対処しても以下のような不調が現れるようなら、我慢せずすぐに医師や保健師、助産師に相談してください。
医療従事者に相談すべき症状
妊娠中
- 腹痛や出血、むくみ、頭痛、目がチカチカする
- 胎動が減ったような気がして、胎児の状態や出産が不安でたまらない
授乳中
- 発熱、悪露の急激な増加、出産時の傷の痛みが強くなる、おっぱいの腫れ・痛み、母乳の量の急激な減少、食欲不振などの体調の変化
- 疲れが取れない、不安や悲しさが襲ってくる、気が滅入る、いらいらする、怖くて眠れないなどの精神の不調
乳幼児
- 発熱、下痢、食欲不振、お乳を吸う力が弱まっていると感じる
- 寝つきが悪くなる、音に敏感になる、夜泣きが続く、表情が乏しくなる、夜尿、無気力、自傷行為、赤ちゃん返りなど災害以前になかった様子が見られる
持病をお持ちの方が避難所生活を送るときの注意点は?
高血圧、糖尿病、腎不全、喘息、てんかん、統合失調症などの持病のある人は、避難所にいる間にも治療を継続する必要があります。以下いずれかの方法で、持病の治療を継続してください。
避難所生活で持病治療を続けるには…
- 主治医に連絡を取り、指示を仰ぐ
- 避難所にいる医療関係者に相談し、指示を仰ぐ
- インターネットが使えるようなら、各都道府県または「日本透析医会の災害情報ネットワーク」や「社団法人 日本糖尿病学会」のホームページで情報を集める
血圧や血糖値が高めだけど、すぐに治療を開始・継続するのが難しいという場合は、以下の方法で状態が悪化しないよう対策しましょう。
高血圧を悪化させないために
- 下半身を温め、室内で軽い運動をして血流を促す
- 水分を十分に摂り、手に入るようなら野菜や果物を積極的に食べる
- できるだけリラックスして、十分な睡眠を取る
- 急激な血糖値上昇を防ぐために、食事は少量ずつを複数回に分けて食べる
- できるだけ時間をかけてよく噛み、ゆっくり食べる
- 飲料はできるだけ砂糖の入っていない水、お茶などを選ぶ
- 食事量が少なくなるので、血糖値を下げる薬は低血糖に注意しつつ飲む
高血糖を悪化させないために
おわりに:避難所生活中は、手と口の衛生管理と持病の管理に気を付けて
災害後の避難所生活では、過度な緊張状態のなか、限られた水・食料のみで生活を強いられることもあります。このため、どうしても心身の調子を崩しやすくなりますが、まずは手と口内の衛生管理を徹底しましょう。妊娠中・授乳中の妊婦さんや子供、持病により健康上のリスクが大きい人も、周囲の人にもできる範囲で協力してもらいつつ、健康に過ごせるよう心がけましょう。
(medicommi 2020年5月24日)