腸管出血性大腸菌感染症になったら就業制限や登園停止になるの?2021.05.20
腸管出血性大腸菌感染症はO157などの腸管出血性大腸菌が引き起こす食中毒で、脳症や腎不全などを合併することもある大変恐ろしい病気です。今回は、腸管出血性大腸菌感染症の原因菌や感染経路、予防対策などの基本情報をはじめ、感染した場合に生じる登園・登校・就業制限についても解説していきます。
腸管出血性大腸菌感染症の原因菌や感染経路、症状の特徴は?
腸管出血性大腸菌感染症とは、「腸管出血性大腸菌」が原因で起こる食中毒のことです。大腸菌には無害のものと有害のものがあり、有害で特定の病気や症状を引き起こす大腸菌のことを「病原性大腸菌」と言います。
病原性大腸菌のなかでも、ベロ毒素という非常に強い毒素を作り出す大腸菌を「腸管出血性大腸菌」と呼び、感染すると腸炎による出血や溶血性尿毒症症候群(HUS)を引き起こします。
代表的な腸管出血性大腸菌
- O157
- O26
- O111
- O121
- O128
- O74
- O91 など
このなかでも、とくに注意が必要なものは「O157」「O26」「O111」であり、もっとも感染力が強く重症化しやすいのは「O157」といわれています。
感染経路
感染のほとんどは「経口感染」で、家畜や感染者の糞便に汚染された食べものや飲みものを口にしたり、感染した人がふれたもの(共用のタオルや食器、バスグッズなど)を介して感染することもあります。日本国内では生肉や肉の加工品、サラダなどに使われる生野菜、井戸水などからの感染が見つかっていて、動物への接触による感染例もあります。
症状
口から入った腸管出血性大腸菌が腸管まで移動すると、2~9日の潜伏期間を経てベロ毒素を大量に作り出し、段階的に以下の症状を引き起こします。
腸管出血性大腸菌感染症の症状の経過
- 下痢や腹痛、風邪に似た症状が現れる
- 激しい腹痛とともに、水様性の下痢が生じる
- 発症から3日ほど経過すると、腹痛が激しくなり、出血や血便が現れる
- そのまま回復せずに進行すると溶血性尿毒症症候群(HUS)を発症することがある
溶血性尿毒症症候群(HUS)とは
溶血性尿毒症症候群(HUS)は、腸管に吸収されたベロ毒素が腎臓などの毛細血管の内皮細胞障害を引き起こすことで発症します。血管の上皮細胞が障害されると、赤血球の破壊や血小板の減少、腎機能の低下などが起こり、合併症として腎不全や膵炎、神経障害、脳症などを引き起こすこともあります。
腸管出血性大腸菌感染症の就業制限の内容は、職種によって違う?
以下に当てはまる職種の人が腸管出血性大腸菌感染症になった場合には、都道府県知事等より就業制限がかかることが感染症法により定められています。また、職場が提供した食べものや飲みものが感染の原因であった場合は、食品衛生法により営業停止の措置が行われます。
就業制限の対象となる職種
飲食物の製造、販売、調整または飲食物に直接に触れる業務(調理、配膳、食品工場製造ラインでの作業者など)
就業制限は、検便の結果が陰性になり「便中の原因菌がいなくなった」と認められるまで続きます。
ただし、調理や配膳などの「食品を直接さわる機会がある業務」には制限がかかりますが、会計や事務などの「食品に触れることがない業務」には制限がかかりません。感染の原因や職場全体でどのような業務内容が行われているかにもよりますが、検便結果が陰性になるまでの期間中に「食品に触れることがなく制限がかからない業務」に変更するなどで対応できる場合もあります。
子供が腸管出血性大腸菌感染症に感染したら、登園や登校は停止?
学校保健安全法第19条において、特定の危険な感染症患者に罹患した児童生徒に対し、小中学校及び幼稚園などの校長・園長が出席停止措置をとる権限が認められています。
学校保健安全法第19条の該当記述
校長は、感染症にかかっており、かかっている疑いがあり、またはかかるおそれのある児童生徒等があるときは、政令で定めるところにより、出席を停止させることができる。
対象となる感染症には第一種・第二種・第三種とあり、腸管出血性大腸菌感染症は第三種にあたり、感染や発症が確認された子供は出席停止に応じなければなりません。なお、腸管出血性大腸菌感染症による出席停止期間は、感染や発症またはその疑いが確認された日から「医師が感染の恐れがないと認めるまで」となります。
また、学校のプールや市民プール、民間企業が運営するプールの水は、塩素などで定期的に消毒したり、大腸菌の有無を検査するなどして水質を管理していますが、絶対に安全とは言い切れません。タオルや風呂などの共有が原因での二次感染が起きた例もありますので、出席停止期間中はプールの利用を控えてください。腸管出血性大腸菌感染症という診断が出ていなくとも、下痢の症状があるときはプール利用は避けたほうがいいでしょう。
腸管出血性大腸菌感染症の治療中の過ごしかたと予防のためにできる対策は?
腸管出血性大腸菌感染症が疑われる場合は、まずは便を採取し、病原大腸菌とベロ毒素の有無を確認します。また、下痢以外に下血、血便の症状がある場合は、溶血性尿毒症症候群を発症している可能性があるため血液検査と尿検査も並行して行います。
検査の結果、腸管出血性大腸菌感染症と診断された場合には、一般的な下痢と同じく整腸剤の服用と十分な水分補給と安静を心がけるように指示され、回復を待つことになります。なお、溶血性尿毒症症候群を発症している場合には、医師の判断で血液透析や血漿交換療法、抗生物質の投与を行い治療を進めていきます。
腸管出血性大腸菌感染症の症状はベロ毒素が引き起こしています。市販薬の下痢止めや鎮痛薬を自己判断で飲むとベロ毒素の排出を妨げることになり、回復が遅くなってしまう可能性があります。薬は医師から処方されたもの以外は飲まないようにしましょう。治療期間中は、下痢による脱水を防ぎ体力を回復させることが大切です。水分は十分な量をこまめに補給し、消化に良い食事を摂るようにしてください。
なお、水分と一緒に電解質を失っている可能性もありますので、経口補水液やスポーツドリンクなどのイオン飲料を用意しておいたほうがいいでしょう。
腸管出血性大腸菌感染症の予防法
腸管出血性大腸菌は、75℃以上で1分以上加熱すれば退治できます。他の食中毒と基本的な予防方法は変わりませんので、以下の方法で対策しましょう。
- 食べ物は1分以上加熱し、中まで十分に火が通ったか確認する
- できるだけ生食を避け、基本的には火を通して食べるようにする
- 調理後の食品はできるだけ早く食べきる
- 調理前には手指の先までしっかりと手を洗う。基本的に手はこまめに洗う
- 野菜などを生で食べる場合は、十分に洗浄する
- 身近に感染者が出た場合は、下着やタオルなどの取り扱いに注意し二次感染を防ぐ
おわりに:腸管出血性大腸菌感染症への感染は就業制限、出席停止の対象となる
腸管出血性大腸菌感染症は、O157などの感染力が強く重症化しやすい病原性大腸菌が原因です。おもな感染経路は食べ物や飲み物、感染者の使用物などを介しての経口感染なので、基本的な食中毒対策である程度予防ができます。
ただし、重症化して溶血性尿毒症症候群(HUS)を発症すると死に至るケースもあるので注意が必要です。就業制限や登園・登校停止の対象になる疾患ですので、流行しやすいシーズンは特に予防対策を徹底するようにしてください。
(medicommi 2020年9月26日)