身近な乳酸菌の種類と期待できる作用は?植物性と動物性って何が違うの?2021.07.22
最近「乳酸菌」が使われている機能性表示食品が増えています。乳酸菌が体に良いことはご存知でも、どのような働きがあるかまで知っている方はそれほど多くはないかもしれません。この記事では、身近な乳酸菌の種類と期待できる作用について解説します。ヨーグルトなどの乳酸菌食品を選ぶときの参考にしてください。
機能性表示食品でよく見る乳酸菌って、どんな細菌なの?
乳酸菌は糖を発酵させて乳酸を作り出す細菌のことで、ヒトや動物の皮膚・体内をはじめ、自然界のあらゆる場所に生息しています。腸内のような「酸素がない環境」でも増殖できる「嫌気性(けんきせい)細菌」で、古くから以下のような食品の製造に利用されてきました。
乳酸菌によって作られる食品の例
チーズ、ヨーグルト、キムチなど発酵を伴う漬物、清酒 など
ヨーグルトに「〇〇乳酸菌配合」と表記されているので、乳酸菌=ヨーグルトというイメージを持つかもしれませんが、実はキムチやぬか漬けなどの「発酵性の漬物」にも使われています。
一部のヨーグルトで使われている「ビフィズス菌」も乳酸菌の一種です。ただし、乳酸菌が「乳酸」だけを産生するのに対し、ビフィズス菌は乳酸と酢酸を産生することから、別の種類に分類されることもあります。
乳酸菌もビフィズス菌も、腸の調子を整えて便通を改善してくれる「善玉菌」で、生活習慣病の予防に役立つとされています。また、近年では免疫力やピロリ菌への影響などの研究も進められています。
乳酸菌は健康維持に役立つことが期待されており、2019年12月時点で20種類以上が「機能性表示食品」として消費者庁に届け出されています。
機能性表示食品とは
- 事業者の責任において、科学的根拠に基づいた機能性を表示した食品
- トクホ(特定保健用食品)と違って、国が安全性や機能性の審査をしていない
- 消費者が正しい情報のもと、商品を選択するための制度として2015年に開始された
乳酸菌の場合、以下の機能性表示の届け出が行われています。 - 整腸作用
- 内臓脂肪、尿酸値に関する「体調管理指標」
- 肌、歯茎、歯肉の「組織機能」
- 目、鼻、睡眠などに関する「本人が自覚できる症状」
善玉菌と悪玉菌
人間の腸内には1,000種類、100兆個以上もの細菌が生息していると言われています。どのような種類の細菌が、どのようなバランスで生息しているかは、出身国や居住国、体質などにより大きく変わるものの、体に及ぼす影響によって以下の3グループに分類することができます。
善玉菌
- 健康維持に役立つ細菌
- 乳酸菌、ビフィズス菌などが該当する
- 乳酸や酢酸を作って腸内を酸性にし、悪玉菌の増殖を抑制する
- 腸内でビタミンを産生する
悪玉菌
- 体へ悪影響を及ぼして、病気や不調を引き起こす細菌
- ウェルシュ菌、病原性大腸菌、黄色ブドウ球菌などが該当する
- 善玉菌の数が少なくなったり、働きが弱まったりすると増殖する
- たんぱく質や脂質中心の食事や不規則な生活、ストレス、便秘などが続くと増えやすい
日和見菌(中間菌)
- 善玉菌が優勢になると善玉菌として作用し、悪玉菌が優勢になると悪玉菌を助ける作用をする
- 無毒株の大腸菌、無毒株のバクテロイデス、レンサ球菌などが該当する
- 健康状態が悪くなったときや、腸内環境が悪化したときに問題が起こりやすい
善玉菌が優勢のときは便の調子も良く、健康維持もしやすいですが、悪玉菌が優勢になると体調不良や病気になりやすくなります。善玉菌・悪玉菌・日和見菌のバランスを整えるには、善玉菌や善玉菌のエサになるものを積極的に摂り、悪玉菌が増えにくい生活習慣を心がける必要があります。
植物性乳酸菌と動物性乳酸菌の違いは?
乳酸菌は大きく「植物性乳酸菌」と「動物性乳酸菌」の2種類に分類されます。
植物性乳酸菌
- 野菜や穀物、果物など、植物質から分離・発酵して増殖する乳酸菌
- 発酵のためにさまざまな糖を利用できるため、栄養が乏しい環境でも増殖可能
- 耐酸性や耐塩性があるため、動物性乳酸菌よりも生育できる環境が幅広い
動物性乳酸菌
- 哺乳類の乳など、動物質から分離・発酵して生育する乳酸菌
- 植物性乳酸菌よりも、短時間で発酵・増殖が可能
- 乳糖を主体に発酵するものが多く、他の糖を使って増殖するのは難しい
- 温度やpHなど、増殖できる条件が限られている
※植物性の糖を使って発酵・生育できる動物性乳酸菌や、動物性環境から分離される植物性乳酸菌もあります
「植物性」「動物性」の違いは、あくまで「乳酸菌の分離源」による違いです。また、どちらも乳酸菌という「細菌」ですから、分離源が植物だからといって植物の性質を受け継ぐわけではありません。分離源が違っても、同じ菌種の菌株であれば乳酸菌が持つ遺伝子や基本的な性質はほとんど変わらないと言われています。そして、動物性乳酸菌と植物性乳酸菌のどちらが体によい、体にやさしいということでもありません。
菌種と菌株
菌種と菌株には、以下のような違いがあります。
菌種
- 細菌の種類を表すものであり、学名となる
- 細菌のDNAを抽出したものを調べて分類される
菌株
- 分離源など、菌種よりもより細かい識別をしたもの
- その細菌を分離・使用する研究者や機関が自由に名付けて良い
先ほど「同じ菌種の菌株であれば乳酸菌が持つ遺伝子や基本的な性質はほとんど変わらない」と言いましたが、細菌は分離源やその後の培養環境によって性質が若干変わることがあります。乳酸菌も、菌株が違うと体への影響が変わることがあるため、一般的には乳酸菌も菌株レベルで識別してから研究を行います。
身近な食品に含まれる乳酸菌の種類は?
乳酸菌は、チーズやヨーグルト、味噌やしょう油、漬物類など日本人にとって身近な食品に含まれています。以下に、一般的な乳酸菌の菌種の種類をまとめました。
ロイコノストック・メセンテロイデス
キムチやすんき漬け(長野木曽地方の漬物)、豆乳ヨーグルトなどに含まれています。NTM048株をマウスに与えた研究では、肥満に関係する腸内細菌の減少や、短鎖脂肪酸の増加による体重減少がみられたという結果が出ています。
ペディオコッカス・アシディラクティシ
ぬか床や発酵乳などに含まれています。乳酸菌R037株の臨床試験では血中中性脂肪の低減がみられ、K15株の臨床試験では免疫にかかわるIgA産生が強まるという結果が出ています。
ラクトバチルス・プランダルム
キムチやすぐき漬け(京都の伝統的な漬物)、鮒ずし、ピクルスなどに含まれます。また、サワードウ(パン種)、ワイン、豆乳ヨーグルトにも含まれています。HK L-137株の臨床試験では、歯周ポケットの改善がみられたという結果が出ています。
ラクトバチルス・ブレビス
キムチやすぐき漬け、きゅうりの古漬けなどに含まれています。慢性の便秘で下剤を使用している方を対象にしたKB290株を使った試験では、下剤の使用量・使用回数の減少と下剤の使用や便秘による不安症状の改善がみられたという結果が出ています。
ラクトバチルス・デルブルエッキ
ヨーグルトやチーズなどに含まれています。ラクトバチルス・デルブルエッキの亜種であるラクトバチルス・ブルガリクス OLL1073R-1株が産生するEPS(菌体外多糖)をマウスに経口投与する実験では、NK活性の上昇効果がみられたという結果が出ています。
ストレプトコッカス・サーモフィルス
ヨーグルトやチーズ、豆乳ヨーグルトなどに含まれています。高齢者を対象にしたST9618株の臨床試験では、風邪の流行シーズンにおける発症と症状軽減の軽減がみられたとの結果が出ています。また、乾燥肌の自覚がある方を対象にした1131株の試験では、肌質や乾燥の改善がみられたという結果が出ています。
ラクトバチルス・カゼイ
ヨーグルトやチーズ、サワードウなどに含まれています。YIT9029株を使ったマウス実験ではTh1/Th2バランスの改善がみられ、花粉症の方を対象にした試験では鼻症状の発現が遅くなったという結果が出ています。
ラクトコッカス・ラクチス
チーズやサワークリーム、発酵バターなどに含まれています。JCM5805株を使った非臨床試験では、アトピー性皮膚炎の悪化に関係すると考えられている皮膚の黄色ブドウ球菌の減少、皮膚のバリア機能の維持に関係するタイトジャンクション遺伝子や殺菌作用のある抗菌ペプチド遺伝子の増加がみられたとの結果が出ています。
また、健康な方を対象にした臨床試験では、皮膚の細菌叢(肌フローラ)の安定化がみられたという結果が出ています。
テトラジェノコッカス・ハロフィルス
味噌や醤油、魚醤、塩辛などに含まれています。MN45株を使ったマウス実験では、アトピー性皮膚炎による耳や顔の炎症や耳組織の肥厚の改善がみられたという結果が出ています。
ラクトバチルス・ラムノサス
さまざまなところで見つかる乳酸菌です。動物の消化器官内や尿路、生殖器から見つかることもあります。
便秘や皮膚のトラブル(乾燥や吹き出物など)がある方を対象に実施した、ヒト由来であるBB株を使った臨床試験では、便秘の方の排便量や回数の増加、便の質の改善がみられ、肌質や一部の皮膚症状の改善もみられたという結果が出ています。
ラクトバチルス・ガセリ
人間の腸内や、女性の生殖器内下部に生息する常在菌です。SBT2055株を使った臨床試験では内臓脂肪量の減少が、OLL2716株を使った臨床試験ではピロリ菌の抑制効果がみられました。
ビフィドバクテリウム・ラクティス
ビフィズス菌の一種で、ビフィドバクテリウム・アニマリスの亜種です。LKM512株を使った臨床試験では、排便回数や便中の水分量の増加、アトピー性皮膚炎のかゆみの軽減がみられたという結果が出ています。また、Bb-12株を使った臨床試験では、便性や便性細菌叢の改善がみられたという結果が出ています。
フィドバクテリウム・ブレーベ
乳児ビフィズス菌と言われるビフィズス菌の一種です。フィドバクテリウム・ブレーベ ヤクルト株(ビフィズス菌ヤクルト株)の臨床試験では、回腸まで届きやすく腸内フローラの改善がみられたとの結果があり、整腸剤などで使われています。
ラクトバチルス・ヘルベティカス
チーズの製造で使われる乳酸菌です。健康な高齢者を対象にしたCM4株を使った臨床試験では、継続的に飲用することで睡眠の質や生活の質の改善、皮膚の角層の水分量の増加がみられたとの結果が出ています。
おわりに:乳酸菌は菌株ごとに違った作用が期待でき、研究が進められている
乳酸菌は動物の皮膚や体内、海の中に至るまでさまざまな場所に生息している細菌です。古くからチーズやヨーグルト、漬物、調味料、清酒など発酵食品の製造に利用され、近年ではさまざまな健康効果をもたらすことがわかってきました。期待できる作用が菌株ごとに違い、多くの企業・機関が現在も研究に取り組んでいます。
乳酸菌を積極的に摂ることで、便通の悩み以外の不調の解決に役立つ可能性があります。バランスの良い食生活が基本にはなりますが、普段の食事にうまく取り入れてみてください。
(medicommi 2020年9月12日)