四十肩・五十肩の症状緩和や再発予防には、どんな体操がおすすめ?2021.08.05
四十肩・五十肩は加齢が要因のひとつなので、発症することはある程度仕方がないことです。ただ、適切な体操やリハビリを行うことで、発症や再発を予防できる可能性があります。この記事では、四十肩や五十肩の原因や治療法、予防に役立つ体操や運動方法をご紹介します。肩こりの方にも役立つ体操なので、職場や自宅でのケアにぜひ取り入れてください。
四十肩・五十肩とは
四十肩・五十肩の医学的な診断名は「肩関節周囲炎」です。肩関節周囲炎は、40代〜60代に起こりやすいことから「四十肩・五十肩」と呼ばれています。年齢が上がるにつれて起こりやすくなりますが、若い方でも発症する可能性はあります。
肩を上げると痛む、手を後ろに回すと痛む、痛みで腕を水平に保てなくなるなどが代表的な症状です。日常生活では、以下のような困りごとの原因になります。
四十肩・五十肩で起こる日常生活の困りごと
- 洗濯物が干せなくなる
- 髪を結べなくなる
- 髪を洗えなくなる
- 上にあるものが取れなくなる
- つり革がつかめなくなる
- エプロンの紐が結べなくなる
- 服を着替えたり、歯を磨いたりするのに苦労する
- 背中のファスナーが上げられなくなる
- おしりのポケットのものが取りにくい
このような症状・困りごとは自然に軽減していきますが、対策をとらずに放置すれば、再発を繰り返すことになります。
肩関節の機能と四十肩・五十肩の関係
肩関節は、関節のなかでもとくに可動性にすぐれています。これは、人間の肩関節が、可動域の広さと安定性を兼ね備えているからです。
肩関節の関節窩(関節を作る骨のくぼみ)は、股関節のように深くできていません。自由な可動性がある反面、股関節のように深くはまり込んでいないので、安定力が乏しく外れやすい構造になっています。この不安定さを補って肩関節の動きをスムーズにしているのが「回旋筋腱板(腱板:ローテーターカフ)」です。
炎症や組織変性、血行不良などで腱板がうまく機能しなくなると、肩の動きが悪くなったり、不安定になったりします。その結果、筋肉や腱板、関節包、滑液包に炎症が起こって四十肩・五十肩を引き起こすと考えられています(ただし、詳しい原因やメカニズムはわかっていません)。
四十肩・五十肩の急性期、慢性期、回復期とは?
肩関節周囲炎(四十肩・五十肩)には、急性期・慢性期・回復期の3つの段階があります。
急性期
一般的に言う急性期とは、病気のなり始めのことです。四十肩・五十肩で言うと、痛みが出始め、日常生活に支障が出る時期にあたります。急性期は症状がどんどん変化していく時期なので、適切な処置をしないと痛みはどんどんひどくなっていきます。
急性期は約2〜9カ月続くこともあり、安静時や夜間の激しい痛みに悩まされることも少なくありません。この時期は安静が必要であり、三角帯(三角巾)での固定が必要になることもあります。
急性期の代表的な症状は、以下の通りです。
痛み
- 肩のあたり、関節部分が重苦しく痛む
- ズキズキとする痛みがある
- 腕や肩を動かすと痛みが出る
感覚異常
- 肩周りの感覚が鈍くなっている
- 腕に違和感がある
- 首や肩のあたりに張りやしびれを感じる
安静時痛・夜間時痛
- 動いても、安静にしていてもひどく痛むか、痛みが変わらない
- 朝晩に痛みが強くなる
- 夜寝るときに痛みがあり寝つけない、痛みで目が覚める
四十肩・五十肩の慢性期
慢性期は4カ月〜12カ月ほど続くことが多いです。急性期の激しかった痛みがだんだんおさまって、鋭い痛みから鈍い痛みへと変化していきます。動かしたときに、つっぱった感じが出ることもあります。
慢性期に入ると、夜間時痛や安静時痛が落ち着いて「動かさなければ痛くない」状態になります。ただ、この時期に肩を動かさないままでいると、可動域が狭くなって「拘縮(こうしゅく)」が起こってしまうため、徐々に運動範囲を広げるリハビリが必要になります。拘縮で肩が動かなくなると、組織の癒着が始まって回復が遅くなるので注意が必要です。
四十肩・五十肩の回復期
回復期に入ると痛みはほとんど治まり、動かしても痛みが出なくなるので動かせる可動域も広くなります。積極的に運動して筋力と柔軟性を高め、可動域を広げるトレーニングが推奨されます。
四十肩・五十肩の治療の進め方は?
腱板断裂や石灰沈着性腱板炎、変形性肩関節症など、四十肩・五十肩と似た症状が出る肩の病気もありますし、頸椎の異常や内臓疾患、痛風、偽痛風で肩の痛みが出ることもあります。四十肩・五十肩の症状に気づいたときは、まず整形外科を受診し、四十肩・五十肩以外の深刻な病気が原因ではないか調べてもらいましょう。
四十肩・五十肩であれば基本的には保存療法で治療が行われ、急性期・慢性期・回復期それぞれに合わせた方法で治療が進められます。
急性期の保存療法
急性期にはまず安静が指示され、痛みへの対症療法(痛み止めの注射や服薬)が行われます。必要に応じて、アイシングや温熱療法が指示されることもあります。
また、夜間時痛がひどいと睡眠不足や睡眠の質の大幅な低下を招くため、回復も遅くなります。寝ているときの肩や腕のポジショニングを工夫することで、夜間時痛を軽減できることがあります。
寝ているときのポジショニング
仰向けで寝る場合
- 丸めたタオルや枕を痛みがある側の体の横に置き、そこに肩から肘を乗せて肘が肩より低くならないようにする
- 肘を軽く曲げ、お腹の上に手を置く
- 横から見たとき、肘が肩より下がっていないか確認する
横向き寝の場合
- 痛みがある側を上にして寝る
- 肘を曲げ、抱き枕やクッション、バスタオルを抱きかかえて、肘が肩より下がらないようにする
肘を曲げ、肘が肩よりも下がった位置にならないようにするのがポイントです。できるだけ痛みが和らぐ姿勢を探ってみてください。
慢性期の保存療法
慢性期に入ったら、温熱療法で血行を促したり、可動域を広げるリハビリを始めます。リハビリには、マッサージ、関節可動域訓練、筋力訓練、腱板機能訓練などがあります。ただ、慢性期に無理をすると痛みがぶり返すことがあるため、医師や理学療法士の指示に従って、適切な方法でリハビリを行いましょう。
基本的には、他動運動や他動的ストレッチから始めて筋肉の回復を促し、少しずつ負荷を高めていきます。
回復期の保存療法
回復期には可動域が大幅に広がり、日常生活の動きでは痛みがほとんど出なくなります。ただ、最終可動域では痛みや違和感が出ることがあるので、ストレッチ、筋力訓練、腱板機能訓練で筋力や柔軟性をさらに高めて最終可動域の痛みや違和感の回復を目指します。
回復期になると自主トレーニングがしやすくなるので、ホームケアを積極的に行います。ただし、回復期であっても、無理をすると筋肉や靭帯を痛める可能性があります。間違ったフォームになっていないかなど、医師や理学療法士に定期的にチェックしてもらいましょう。
最終可動域の痛みは回復しにくく、改善するまで数カ月以上かかることもあります。焦らず、気長に取り組むように心がけてください。
四十肩・五十肩の予防には、どんな体操やストレッチがおすすめ?
四十肩・五十肩を予防するためには、肩関節の柔軟性を高めることが重要です。肩関節の柔軟性のカギを握るのは「肩甲骨まわり」です。肩甲骨まわりにアプローチする体操やストレッチを行うことで、腱板や筋肉の筋力や柔軟性を高めるだけでなく、肩全体の安定性を向上させて可動域を広げることもできます。
簡単にできることを習慣化して、少しずつ負荷を高めていくことが大切です。まずは手軽にできる運動・体操からはじめましょう。
「胸を張る・寄せる運動」
- ①ベッドや椅子に座り、腕を身体の横に降ろして背筋を伸ばす
- ②肩甲骨を寄せるように胸を張る(肩が上がらない、腰を反らさないように注意する)
- ③肩甲骨を離すように胸を寄せる(肩が上がらないように注意する)
「背中に沿って手を上げる運動」
- ①腰の後ろに両手を回し、痛みがない側の手で痛みがある側の手首を持つ
- ②痛みがない側の手で助けながら、痛みがある側の手を背中に沿ってゆっくり上げていく
- ③ 限界まで上げたら、ゆっくり元の位置に戻す(痛みが出るところまではやらない)
「肘を開いたり閉じたりする運動」
- ①頭の後ろで両手を組む
- ②肘と肘を寄せるようにゆっくり閉じる
- ③肘をゆっくり開き、元の位置に戻す
タオルを使った肩前部の後方のストレッチ
- ①両手でタオルの端を持ち、ピンと張った状態で頭の上まで上げる
- ②両肘を曲げ、両手をゆっくり頭の後方へ持っていく
- ③両手をゆっくりと頭の上まで戻す
タオルを使った肩甲骨まわりの側方のストレッチ
- ①タオルを両手で持ち、頭の上まで上げる
- ②両手をゆっくり横に倒す(腰を曲げるのではなく、腕から肩甲骨が伸びていると感じるように倒す)
- ③ゆっくりと元に戻し、反対側も行う
タオルを使った手を後ろに回すストレッチ
- ①片方の手を頭の上に、もう片方を腰に持っていき、両手でタオルを持つ(タオルは背中側にする)
- ②腰にある手が背骨に沿って引き上がるように、頭側の手でタオルを引く
- ③反対側も行う
腱板にアプローチする運動・体操
簡単な運動で筋力や柔軟性がある程度高まったら、より腱板にアプローチできる運動・体操を行い、肩関節の安定性と柔軟性をさらに高めましょう。
振り子体操
- ①片手をテーブルなどにつき、上半身を少し前かがみにする
- ②もう片方の手をだらんと垂らし、そのまま前後左右に10〜20回程度ゆする
振り子体操は、腕の重みによる牽引が働きますし、重みによる反動を使うことで自分ひとりで他動運動に近い運動が行えます。前後の動きができるようになったら、円を描く動きにもチャレンジしてみましょう。痛みが出ないようなら、ペットボトルを持ちながら行うことで負荷をかけることができます。
肩甲骨のアップダウン体操(四つんばい)
- ① 手首が肩の真下にくるよう、四つんばいになる
- ② 肘が曲がらないように注意しながら、肩甲骨を頭の方へゆっくりと近づけていく(頭、背骨、骨盤は動かさない)
- ③ 耳と肩との距離を広げるように、肩甲骨を臀部の方へと戻していく(猫背にならないようにする)
- ②〜③を5〜10回程度繰り返す
四つんばいになると手首が痛む場合は、手を握ってグーで身体を支えるか、手の下に柔らかいタオルなどを敷きましょう。
肩甲骨のアップダウン体操(四つんばいが難しい方向け)
- ① 椅子に座って姿勢を正し、両手を身体側にだらんと垂らす
- ② 肩を耳に近づけるように、肩をゆっくりと上げていく(背骨を動かさないようにする)
- ③ 肩甲骨をお尻のポケットにしまいこむイメージで、耳と肩との距離を広げるように肩を下げていく
- ②〜③を5〜10回程度繰り返す
肩関節回し
- ① 肩をリラックスさせるため、息を吸いながら肩を耳に近づけるように限界まで引き上げ、息を吐くと同時に脱力して肩をおろす
- ② ①の肩の高さが変わらないように、服の肩と袖の縫い目をつまむ
- ③ 服をつまんだまま、肘で円を描くように肩を回す(最初は小さく、徐々に大きく)
- ④ 右肩の前回し、後ろ回しを1分間行ったら、左肩を同様に
- ⑤ 両肩を一緒に、前後に1分間回す
上記の運動は、姿勢のリセットにもなりますので、四十肩・五十肩だけでなく、肩こりの予防にもなります。デスクワークや同じ姿勢が続く方や運動不足の方は、積極的に取り入れてみてください。
おわりに:四十肩・五十肩予防や改善は、筋肉が固まらないようにするのがポイントです
四十肩・五十肩(肩関節周囲炎)の原因ははっきりわかっていませんが、加齢や運動不足によって肩の動きが悪くなることが関係していることがわかっています。日頃から肩を動かす体操に取り組むことはもちろん、慢性期から回復期のリハビリも大切です。痛みがある場合は、医師や理学療法士の指示に従いながらリハビリに取り組みましょう。また、痛みがない方は積極的に肩を動かすようにしてください。
(medicommi 2021年1月9日)