母乳育児期間の長さとむし歯の関係2021.11.11
WHO(世界保健機関)とユニセフは、お子さんが2歳以上まで母乳育児を続けることを推奨しています。一方、むし歯の研究者たちは、そこまで母乳育児の期間が長くなるとお子さんにむし歯ができやすくなるのではないかと、議論が繰り返されています。母乳育児の期間とむし歯の関係を調べたシステマティック・レビューも数々出ていますが、結果はイエスだったり、ノーだったり。そのため、母乳育児の期間が長いとむし歯になりやすいと信じる歯科医は、お母さんたちに早い時期の断乳・卒乳を勧めますし、母乳育児の期間とむし歯は関係ないと信じている歯科医はWHOとユニセフの推奨を勧めます。
なぜはっきりとした結論が出ないのかというと、むし歯が成り立つには母乳育児の期間以外にもいろいろな因子が関係しているからです。例えば、一日何回授乳しているか、添い乳をして寝かせるか、哺乳瓶の中に何を入れているか、食事を一日何回食べさせているか、歯が生えてから仕上げ磨きをしているか、フッ化物を使っているか、母親と食器の共有をしているか、母親のお口の中にむし歯菌がたくさんあるか、などなどです。そして、これらに大きく関係しているのが、母親の知識や行動に直結する教育レベル、職業、収入などの社会経済因子です。
最近発表されたオランダの大規模な(4,146人)調査では、母乳育児が12ヶ月を超える人たちは、母乳育児が6ヶ月未満の人たちに比べて、6歳の時にわずかにむし歯になりやすかったことがわかりました。この調査では母乳育児が12ヶ月を超える人たちでも12.4%しかいなかったためか、WHOとユニセフの推奨のように2歳以上まで母乳育児を続ける場合については調べられていませんが、上述の様々に関係する因子を統計学的に調整して、母乳育児の期間が長くなると、むし歯になりやすいことがわかりました。
しかし、とても大切な因子である夜間に母乳を授乳すること、赤ちゃんの欲しいままに母乳を授乳すること、食事の回数などは調べられていないため、母乳育児期間が長くなるとむし歯になりやすいことの理由までは解明されていません。よって、母乳育児期間を例えば生後6ヶ月間未満に短くしたとしても、その代わりに夜寝る前にお菓子を食べる習慣や、日中にダラダラ食いをする習慣をつけてしまうと、ずっとむし歯になりやすくなってしまいます。母乳育児の期間を長くするとお子さんの全身健康には良いので、わずかな差でむし歯になりにくくするためだけにそれを短くするのはいかがなものでしょうか。むし歯に関しては、食事の摂り方、フッ化物の使い方、歯科医院の通い方などの予防の勘どころを抑えれば良いでしょう。
(謝辞)
乳幼児のむし歯予防研究「Okuizoméプロジェクト」の研究チームに感謝申し上げます。