【産婦人科医コラム】産婦人科医師は女性アスリートの味方です!2022.05.26
産婦人科専門医の立場から、女性アスリート支援に必要な視点と具体的対策についてお示しいたします。産婦人科スポーツドクターはまだ多数はおりませんが、地域の産婦人科医師が研鑽を積み、ジュニア世代から気軽に相談できる窓口となることで、生涯にわたる健康に寄与したいと考えています。
1.月経コントロール
女性アスリートの約7割が月経トラブル(月経痛、月経不順、月経前症候群など)によるパフォーマンスの低下を自覚している一方、産婦人科を受診しているのはその2割にとどまるとの報告があります。以下を受診の目安としてください。
- 中学卒業までに初経発来がない
- 「3のルール」①出血が3週間続く、②月3回来る、③月経が3か月来ない
月経を記録する習慣をつけ、選手とサポーター間で情報を共有することが大切です。若年の月経痛・月経困難症は、子宮内膜症の発症リスクが2.6倍となることが明らかとなり、できるだけ早期の医療介入が望ましいとされています。「鎮痛剤を飲んでも生活や活動に支障がある」場合、低用量ピルなどのホルモン療法により月経痛、月経周期のコントロールが可能です。妊娠を希望するまで排卵を休ませることは、将来の不妊症や卵巣がん、心筋梗塞などの予防にもつながります。
2.運動量と食事量のバランス
スポーツにおける相対的エネルギー不足RED-S(Relative Energy Deficiency in Sport)はパフォーマンスの低下および心身の健康被害を引き起こします。利用可能エネルギー不足(脳下垂体ホルモンの低下)→無月経(女性ホルモン・エストロゲンの低下)→骨粗鬆症、疲労骨折、これを女性アスリートの三主徴といいます。10代での低エストロゲン状態は20歳までに獲得する最大骨量の低下を招き、閉経以降の骨粗鬆症のリスクも上がります。以下3点に留意してください。
- 初経発来前の選手に体重制限を指示しない
- BMI(Body Mass Index)≧18.5を目安に
- 3か月以上の無月経は産婦人科を受診する
審美系種目、陸上長距離などにおいて低体重が技術や記録の向上に有利とされがちですが、それは成長過程の一時的評価に過ぎません。栄養士とも連携しながら、定期的に運動量と食事量のバランスをチェックし、健康を度外視した勝利至上主義に陥っていないか複数の目で確認する必要があります。
3.BAHD防止キャンペーン
日本スポーツ協会では、
・B(Bullying)いじめ
・A(Abuse)虐待
・H(Harassment)ハラスメント
・D(Discrimination)差別
これらの行為をスポーツ界からなくすことを目指し「子どもを守ろう:BAHD防止キャンペーン」を推進しています。先ごろ全日本柔道連盟が発表した、全国小学生大会の廃止は英断でしたし、益子直美さんが開催している「怒ってはいけないバレーボール大会」はポリシーに則った素晴らしい試みです。東京五輪開催前に、様々な競技団体でハラスメントや暴力行為が明らかになり、さらにはジェンダー平等に反する発言によりトップが交代する事態となりました。これらの反省材料から、スポーツ界のみならず学校教育、社会生活の中であらゆる暴力、差別をなくす努力を続けていきましょう。