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【産婦人科医コラム】ご存知ですか?「不育症」について2022.10.06

 みなさん「不育症」ってご存知でしょうか?あまり聞いたことがない方もいらっしゃるかと思いますが、今回は2回にわたって「不育症」についてお話していきます。

不育症とは

 流産や死産を2回以上繰り返す状態と定義されています。流産は約15%に起こり、多くは妊娠初期に起こります。習慣流産は3回以上連続する流産であり、不育症に含まれます。

 環境省の「子どもの健康と環境に関する全国調査 (エコチル調査)」によれば、不育症は5.0%の頻度でした。[文献1]

不育症の検査と原因

 不育症の4大原因は、①抗リン脂質抗体症候群②先天性の子宮形態異常③カップルの染色体異常④胎児の染色体異数性(数の異常)です(表1)。

 過去の報告では、50%以上のカップルがこれら4つの原因に該当せず原因不明と考えられてきましたが、当時は最も頻度の高い胎児の染色体検査が実施されていなかったためと考えられます。

 482組のカップルの原因を調べた研究では、41%が胎児染色体数の異常で最も多く、真の原因不明は25%にとどまります(図1)。

 最近では、受精卵の染色体検査である着床前染色体異数性検査(preimplantation genetic testing for aneuploidy (PGT-A))が着目されていることから、2022年4月に絨毛染色体検査は保険適用となりました。


①抗リン脂質抗体症候群

 国際抗リン脂質抗体学会が提唱する抗リン脂質抗体症候群分類基準案によれば、

  • 妊娠10週未満の3回以上連続する原因不明習慣流産 (2回でもよい)
  • 妊娠10週以降の胎児奇形のない1回以上の子宮内胎児死亡
  • 重症妊娠高血圧性腎症もしくは胎盤機能不全による1回以上の妊娠34週以前の早産

を経験した方に抗リン脂質抗体を測定します。

 ループスアンチコアグラント(リン脂質中和法と希釈ラッセル蛇毒法)は2種類以上を測定します。

 また、抗カルジオリピン抗体か抗β2GPI・CL複合体抗体のどちらかを測定します。たくさんの検査が出回っていますが、治療効果(出産率改善)がはっきりしている検査は限られます。流死産予防としては低用量アスピリン・未分画ヘパリン療法が標準的治療法であり、出産率は70-80%です。[文献2,3]

②先天性の子宮形態異常

 先天性の子宮形態異常をみつけるためには経腟超音波検査を行います。中隔子宮といわれる子宮の形は正常でも子宮の内腔に壁があるものの頻度が最も高く、子宮鏡で壁を切除する子宮鏡下中隔切除術が行われてきました。

 2021年オランダの研究では、中隔切除群では31% (12/39)、非手術群では35% (14/40)の出産率であり、出産率は改善せず、流産率、早産率も減少しませんでした。[文献4]手術の効果は今のところはっきりしていません。

③カップルのどちらかの染色体異常

 染色体の異常の中でも均衡型転座という染色体の2ケ所が切れて入れ代わってしまう異常があります。遺伝子の過不足はないのでご本人に病気が発症することはありませんが、染色体の均衡型転座がある方の卵子や、精子の遺伝子配列に不均衡が起こってしまうことがあります。遺伝子の配列が不均衡になった卵子と精子は受精しても流産してしまいます。ただし、均衡型転座のあるカップルの卵子と精子の遺伝的配列が必ず不均衡になるわけではないので妊娠・出産することも可能です。

 カップルのどちらかに均衡型転座をお持ちの方に、着床前構造異常検査(PGT for chromosomal Structural Rearrangement (PGT-SR))という検査が行われることがあります。これは体外受精によって得られた受精卵の一部を取り出して検査をし、不均衡でない受精卵のみを子宮に移植(胚移植)して流産を防止する技術です。生命の選択であり、優生思想につながるという倫理的課題があるために日本産科婦人科学会の見解に従って実施することができます。

 PGT-SRを実施した群と実施しなかった群を比較した論文は世界で一つしかなく、流産は減少しましたが、累積出産率に差はありませんでした(67.6%と65.4%)。[文献5]

④胎児の染色体異数性流産

 流産の50-80%に胎児の16番トリソミー※などの染色体異数性がみられます。女性の加齢によって頻度は増えます。絨毛染色体検査は行われていないことが多いため、“原因不明”には胎児染色体異数性と正常の患者さんが含まれます。

 欧米では、原因不明習慣流産に対して約20年間、受精卵の染色体検査(着床前染色体異数性検査preimplantation genetic testing for aneuploidy (PGT-A))が実施されてきました。日本では倫理的理由から学会が禁止してきましたが、妊娠の高年齢化が進み、社会のニーズが高まったとして、2014年3月からPGT-Aの臨床研究が始まっています。

 PGT-Aには不育症患者さんの出産率を改善する効果は今のところ認めていません。その主な理由は、原因不明の不育症には胎児の染色体が正常にもかかわらず流産するものが含まれているためです。PGT-Aはまだ研究的な技術といえます。

※トリソミー:ある染色体が1本余分に存在し、同じ番号の染色体が(正常の2本ではなく)合計で3本になった状態をトリソミーといいます。

原因不明の不育症に対する薬剤投与

 原因不明の不育症患者さんは薬剤投与の必要性はなく、一定の確率で出産できます。平均的な年齢の患者さんが妊娠した場合、2回流産でも80%、3回:70%、4回:60%、5回:50%の方が次の妊娠で出産できます。

 原因不明の患者さんに、アスピリン、ヘパリン、ピシバニール、タクロリムス、イムノグロブリン療法などいろいろな治療が行われていますが、いずれも研究的治療です。

 はっきりとした根拠が示されていない検査・治療が出回っており、高額な費用を払っている患者さんがいらっしゃいます。不安な場合は、日本不育症学会認定医に相談することをおすすめします。

おわりに

 今回初めて「不育症」という言葉を聞かれた方もいらっしゃるかもしれませんが、悩んでいる方がいれば、私たち専門の産婦人科医にぜひ一度ご相談ください。

[文献1] Sugiura-Ogasawara M, Ebara T, Matsuki T, Yamada Y, Omori T, Matsumoto Y, Kato S, Kano H,Kurihara T, Saitoh S, Kamijima M; and the Japan Environment & Children’s Study (JECS) Group. Endometriosis and Recurrent Pregnancy Loss as New Risk Factors for Venous Thromboembolism during Pregnancy and Post-Partum: The JECS Birth Cohort. Thromb Haemost. 2019; 119: 606-617.
[文献2] Kutteh WH. Antiphospholipid antibodies-associated recurrent pregnancy loss: treatment with heparin and low-dose aspirin is superior to low-dose aspirin alone. Am J Obstet Gynecol 1996; 174: 1584-89.
[文献3] Rai R, Cohen H, Dave M, Regan L. Randomised controlled trial of aspirin and aspirin plus heparin in pregnant women with recurrent miscarriage associated with phospholipid antibodies (or antiphospholipid antibodies). BMJ 1997; 314: 253-257.
[文献4] Rikken JFW, Kowalik CR, Emanuel MH, Bongers MY, Spinder T, Jansen FW, Mulders AGMGJ, Padmehr R, Clark TJ, van Vliet HA, Stephenson MD, van der Veen F, Mol BWJ, van Wely M, Goddijn M. Septum resection versus expectant management in women with a septate uterus: an international multicentre open-label randomized controlled trial. Hum Reprod. 2021 Apr 20;36(5):1260-1267.
[文献5] Ikuma S, Sato T, Sugiura-Ogasawara M, Nagayoshi M, Tanaka A, Takeda S. Preimplantation Genetic Diagnosis and Natural Conception: A Comparison of Live Birth Rates in Patients with Recurrent Pregnancy Loss Associated with Translocation. PlosOne. 2015 Jun 17;10(6):e0129958.

杉浦 真弓

杉浦 真弓

名古屋市立大学大学院医学研究科 産科婦人科 教授 不育症研究センター長

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