【産婦人科医コラム】「これって更年期!?」2024.04.26
「これって更年期!?」
なんだか疲れがとれない。楽しくない。身体のあちこちが痛い。急なめまいや動悸。原因不明のかゆみ。考えがまとまらず、仕事がはかどらない。・・・こんな症状に悩んでいませんか。今まで経験のない症状に戸惑いや不安を感じ、何とか時間をやりくりして内科や脳外科、整形外科や心療内科などさまざまな診療科を受診したものの「異常なし」。これって、更年期(障害)でしょうか?
「更年期は人生100時代の中間地点」
「更年期」は女性のライフステージの一つです。卵巣機能が低下し、生殖機能がなくなる時期をいいます。女性の一生は「小児期」「思春期」「性成熟期」『更年期』「老年期」に分けられますが、高度成長期以前の昭和20年前半まで「更年期」はあまり認識されていませんでした。今でこそ日本は、世界有数の長寿国とされ「人生100年時代」とも言われますが、昭和20年代前半までは人生は50年でした。一方、閉経年齢は、昔と今でそう変わらず50歳前後です。なので、昔は「小児期」「思春期」「性成熟期」のあとに「更年期」を経ることなく寿命がつきてしまうことから、「更年期」があまり認識されてこなかったのです。現代は寿命が延び、人生100年時代のちょうど中間地点に「更年期」がやってきます。
更年期症状は80種類以上!
この「更年期」に生じる不快な症状を「更年期症状」といい、日常生活に支障をきたすほどになると「更年期障害」と呼ばれますが、症状は大きく3つに分けられます。1つ目は、冷え・のぼせや発汗過多などの自律神経失調症状、2つ目は、抑うつやいらいらなどの精神・神経症状、3つ目は肩こりや関節痛、排尿障害や掻痒感(そうようかん) などその他の身体化症状となります。症状をあげていくと80種類以上あると言われ、症状だけでなく程度も様々です。
ただこれらの症状の多くが、実は更年期に特有の症状ではありません。「不定愁訴」と呼ばれます。検査をしても症状の原因となる疾患が見つからず、症状も程度も定まらず、診断が困難な状態とされ、どの年代でも性差もなく起こり得ます。2022年7月厚生労働省が全国の20歳から64歳の女性 2,975人にインターネット調査を行いました。更年期症状等として「簡略更年期指数(SMI)」という日本人の更年期女性に多い症状10項目の指標を用いたのですが、どの年代も約半数が治療を要すると思われる程の自覚症状を認めました。
何歳であっても、更年期(障害)のような症状で半数もの人が悩んでいるということです。更年期の症状は、女性ホルモンの急激な低下が主な原因であり、これにその方の生活環境の変化や成育歴、性格などが複雑に絡み合って生じると考えられています。
不定愁訴と鉄欠乏問題
更年期以外に不定愁訴がよくみられる代表的な時期として、月経前や産後などがあります。不定愁訴は鬱(うつ)の発症時期とも重なりますが、この時期に共通していることとして「女性ホルモン値が大きく変化していることが挙げられます。このため、よく女性の原因不明の不調には、「女性ホルモンのバランスが崩れて」という文言が使われます。確かに女性ホルモンの主役である「エストロゲン」は、鬱の原因である、脳内伝達物質であるセロトニンの動きとリンクしていることが分かっています。そしてセロトニンを増やすためには鉄が不可欠です。ホルモンが分泌される「性成熟期」には月経があり、月経血として出される鉄分は、少ない量の月経血であったとしても、1日換算で鉄の喪失量を計算すると男性の2倍あるとされます。ですから、月経量が多かったり、摂取する鉄分が少なかったりすればさらに足りなくなります。通常、月経血以外は尿や汗、便で鉄は排出されますが、成長期や妊娠中は必要量が増大するため通常の摂取量では足りなくなります。鉄欠乏の症状は、倦怠感や肩こり、頭痛、冷え、めまい、抑うつ、いらいらなど不定愁訴と多くが重なります。特に近年、日本女性の鉄欠乏が問題となっています。この原因として①月経の回数および量の多さと、②鉄分など栄養摂取不足が考えられます。
現代人の栄養失調
厚生労働省の調査によれば、日本は、一人の女性が生涯に生む子供の数である合計特殊出生率を1.26(2023年9月15日)と過去最低値を更新しております。妊娠・出産回数が減り、昔の女性に比べて現代女性は9倍もの生涯月経回数と試算されています。また、性教育も充分でなく、ピルなどのホルモン剤の普及も他国より少ないことから月経回数や月経量も多いとされます。食事については、かつて「飽食の時代」と言われた日本ですが、カロリーは足りていても糖質や炭水化物に偏っており、本来摂取しなければならないタンパク質やミネラルといった栄養が充分摂れておらず、厚生労働省も「新型栄養失調」として警告しています。高齢者だけでなく若年女性の低栄養が顕著とされ、不妊や出生時の心身への影響が危惧されており、プレコンセプションケア(Preconception Care;妊娠前の健康管理)の重要性が叫ばれるようになりました。
一方、糖質・炭水化物の過剰摂取は、血糖調節異常を引き起こします。血糖調節異常の最終形が糖尿病とすると、その前段階に「機能性低血糖症」という病態があります。まだインスリンは出るけれども不規則に出てしまうため、血糖値の激しい乱高下を引き起こします。この時、いらいら、抑うつ、集中困難、冷え、頭痛、だるさや眠気、意識消失発作などさまざまな症状が出現しますが鉄欠乏の症状と同様に、多くの方の不定愁訴と重なります。また鉄欠乏の方の多くが、つらさを紛らわすために糖質や炭水化物の過剰摂取をすることが分かっており、重なっていることが少なくありません。
おわりに 武者先生からユーザーへのメッセージ
「変化はストレス」。生活環境であれ、ホルモン値や血糖値であれ、その変化が落ち着くまでは身体はとまどい混乱状態に陥ります。女性は閉経までは、ホルモン値の乱高下、鉄欠乏に悩みます。現代はこれに血糖値の乱高下も加わります。それでも女性ホルモンのお陰でぎりぎり耐えています。閉経後は、月経血による喪失がなくなるため幾分楽になりますが、最大の味方であるエストロゲンを喪失します。
「女はつらいよ」・・・でも女性は長生きです。最後まで残る「血糖値の変化」を出来るだけ抑える食事の仕方(食べる順番や食事内容、よく噛むことなど)や運動を心がけ、にっこり笑顔で気分を上げて、せっかく延びた寿命を謳歌しましょう!
稚枝子おおつきクリニック
武者 稚枝子
武者稚枝子
稚枝子おおつきクリニック
女性へのメッセージ
様々な分野での女性の活躍が目覚ましいですが、その一方で、女性の担う役割が大幅に増大し、疲弊している女性が増えています。疲れがとれない、過食してしまう、冷える、やる気がおきない、つい子供にあたってしまう、眠れない・・・などさまざまな症状が表れます。原因は一つだけでなく、月経(生理)との関連、育ってきた状況や現在の生活、そして見落とされがちな栄養の問題など、心と体の問題など多くのことがらが要因となっていることがほとんどです。当クリニックでは、こうした要因を一つ一つひもときながら治療をしていきます。ホルモン剤、漢方製剤、栄養療法(分子整合栄養医学)、カウンセリングなどを組み合わせて治療致します。