【産婦人科医コラム】妊娠する力を守るために、今自分でできるFA(Fertility Awareness)宣言!(前編)2018.07.20
FA宣言とは
プロ野球の選手が一軍に登録されて一定の期間に達すると、移籍の自由が与えられる制度としてFA宣言(free agent declaration)があります。自分らしいプレイができる場所を自分自身で選択できる権利です。
女性は現実的には30歳~40歳の10年間が仕事上のキャリアや結婚、出産など人生で大きなライフイベントを迎え選択を必要とする時期がきます。
自分らしい生き方は人それぞれですが、様々な選択肢の一つとして妊娠し子どもを産み育てるという選択肢をキープしておくためには、妊娠する力を自分自身で守っておく、FAが必要です。
これはプロ野球選手のFAとは違い、妊娠する力について自覚し、それを守る行動をとるFertility AwarenessのFAです。
結婚して、子どもをつくりたいと思い、検査を受けて気づいた時には時期遅しということの無いように、是非、知っておいて頂きたいことです。
女性は、月経がある間は何歳であっても妊娠できるわけではなく、女性の年齢が高ければ高いほど妊娠のチャンスは低くなります。
女性の妊娠・出産適齢期は医学的には25歳から35歳で、37歳を過ぎると急激に卵子数が減少し、40歳代になると卵子の染色体の老化により、妊娠しても流産が増えます。
がんと同様に不妊も予防を
男女の死亡原因の第1位は『がん』です。
私たちは、できるだけ予防するために定期的に健康診断を受けたり、がんを誘発すると言われている喫煙、過度な飲酒、添加物の多いバランスの悪い食事、肥満や激やせ、運動・睡眠不足、ストレスなど日常のリスクをコントロールするように気をつけています。
不妊は生命を脅かす疾患ではないために、予防に目を向けられることは今まではそれほどありませんでしたが、妊娠する力も同様に、FA宣言をし、行動を起こすことで、自分らしい選択の幅を広げることができます。
正しい知識をもち、不妊を予防する(女性)
妊娠のしくみや不妊になる原因など生殖に関する正しい知識や情報をもつことはFAでは非常に重要です。
女性は、お母さんのおなかにいる胎児の頃には卵巣に700万個の卵子を持っていますが、生まれたときには200万個に減り、さらに思春期にはその10分の1の20万個にまで減っています。
その卵子が1か月に1個育ち、排卵する頃に精子と出会えると妊娠の可能性がひらけますが、20歳代の女性でも妊娠できるのは約20~30%前後で、年齢とともにその割合は低下します。
生理の間隔が長すぎたり短かすぎる場合は、規則的な排卵が起こらないために妊娠が難しくなる場合もあります。
また、激しい生理痛や生理の出血量が異常に多すぎる場合も子宮内膜症や子宮筋腫などの不妊に関連した婦人科の病気が潜んでいることがあります。
若いころから定期的に婦人科を受診し、検診を受けることで、超音波検査では子宮内膜症や子宮筋腫の有無を診てもらうことができます。
近年では血液検査によるAMH (抗ミュラー管ホルモン)測定により、年齢相応に卵巣に卵子があるかを知ることも可能です。
また、性行為感染症の一つとして卵管がつまる原因のクラミジア感染症に関する検査・治療や、妊娠・出産に必要な臓器である子宮にがんがないか子宮がん検診を受けるなど、妊娠する力を守る定期的なFA行動はとても大切だと思います。
次回は男性の不妊予防についても触れます。(つづく)
村上貴美子
医療法人 蔵本ウイメンズクリニック
女性へのメッセージ
不妊であることを経験したからこそ、夫婦にとって子どもとは何なのか、また夫婦であるとは何なのかを深く考える機会となっていると思います。 今は、不妊の問題をはじめ仕事と不妊治療の両立、がん治療前の妊孕性の温存など様々な課題がありますが、お二人が不妊であることも含め、ご自分らしい道を見つけ歩んで行けるよう、医療の中で最も患者様に近い職種として、皆様の思いに寄り添いながら支援をさせていただきたいと思っています。不安に思ったとき、悩んでいるときなど、どうぞ遠慮せずにご相談下さい。